
日本は世界有数の長寿国ですが、「平均寿命」と、自立して健康に生活できる「健康寿命」の間には、約10年ものギャップが存在します。その原因の一つとして近年問題視されているのが、筋肉量が極端に減少する「サルコペニア」です。一見しっかり食べているように見えても、実は深刻な栄養不足に陥っている「隠れ栄養失調」の実態と、健康寿命を延ばすための食事法について解説します。
カロリーは足りているのに栄養不足?現代の「新型(隠れ)栄養失調」
あっさりした食事(麺類・パン中心)=糖質過多・タンパク質不足の罠

年齢を重ねるにつれ、あるいは手軽な食事を好む若い世代において、「肉や魚は胃がもたれるから、うどんやそうめんで軽く済ませる」といった食生活が増加します。このような食事はカロリーこそ満たせても、栄養素は糖質に大きく偏っており、身体を作る上で最も重要な「タンパク質」が決定的に不足する「新型栄養失調(隠れ栄養失調)」を引き起こします。
筋肉が減り脂肪が増える「サルコペニア肥満」の医学的リスク

タンパク質不足が続くと、身体は筋肉を分解して生命維持に必要なアミノ酸を確保しようとします。これにより筋肉量が激減し、歩行などの日常生活機能が低下する状態が「サルコペニア」です。
さらに恐ろしいのは、筋肉が減ることで基礎代謝が落ち、そこに過剰な糖質が入り込むことで脂肪が蓄積される「サルコペニア肥満」です。これは通常の肥満よりも、糖尿病や心疾患のリスクを飛躍的に高めることが分かっています。
【データで見る】日本人のタンパク質摂取量の低下と健康寿命のギャップ

現代の日本人の1日あたりのタンパク質摂取量は、減少傾向にあります。厚生労働省の調査によれば、飽食の時代と言われながらも、成人全体のタンパク質摂取量は1950年代(戦後間もない頃)と同水準まで落ち込んでいるという報告もあります。
出典:厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」第2部 栄養素等摂取状況(表1 栄養素等摂取量)より
このタンパク質不足の深刻化が、高齢期の寝たきりリスクを高め、健康寿命を縮める大きな要因となっています。
健康寿命を延ばすための「タンパク質」の医学的意義
免疫力、骨、血管…すべてがタンパク質から作られている
タンパク質は筋肉の材料になるだけではありません。私たちの皮膚、髪、血管、骨、内臓、さらには感染症から身を守る免疫抗体に至るまで、身体のあらゆる組織がタンパク質から構成されています。健康的な身体を維持し、老いを遠ざけるためには、絶対的なタンパク質量が必要なのです。
一度に吸収できる量には限界がある!「3食均等」摂取の重要性

タンパク質の重要な特徴として、「体内に貯めておくことができない」という点が挙げられます。夜にステーキを大量に食べて1日分のタンパク質を補ったつもりでも、一度に吸収できる量には限界があり、余剰分は尿として排出されるか、脂肪として蓄積されてしまいます。
筋肉の合成を常にオンにしておくためには、朝・昼・晩の3食で均等にタンパク質を摂取することが医学的に最も効果的です。
まとめ:毎日の食事を無理なく見直す工夫
毎食、肉や魚、大豆製品などから十分なタンパク質を摂ることが理想ですが、生活スタイルによっては難しい方も少なくありません。
そのような場合には、主食を含めた食事全体の内容を見直し、無理なくタンパク質を補える方法を取り入れることも一つの選択肢です。
健康寿命を支えるためには、日々の食生活全体の栄養バランスを意識し、自分に合った方法で継続することが何より大切です。
私たちが毎日欠かさず食べる「主食(麺類、お米、パンなど)」を、あらかじめ主食の内容を見直すというアプローチです。この方法であれば、食事の準備の手間を増やすことなく、またこのような工夫により、毎日の食事の中で無理なくタンパク質を取り入れやすくなります。
健康寿命を支えるためには、毎日の食事全体の栄養バランスを意識し、
自分のライフスタイルにに合った方法で、無理なくタンパク質を取り入れることが大切です。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の商品・食品・治療法の効果効能を保証または推奨するものではありません。
【監修】齋田瑞恵 順天堂大学医学部 総合診療科学講座准教授・順天堂医院総合診療科医局長 兼 病院総医局長

齋田 瑞恵|Saita Mizue
順天堂大学医学部 総合診療科学講座准教授・順天堂医院総合診療科医局長 兼 病院総医局長
代々続く医師の家系に育ち、祖父の教えである「凡医尽人(人に尽くすことが医師の務め)」、「幸せなおじいちゃん、おばあちゃんになろう」が座右の銘。
特定の臓器だけでなく、患者の背景や人生そのものを診る総合診療のスペシャリスト。西洋医学に加え、漢方医学にも造詣が深く、原因不明の不調や倦怠感など、既存の枠組みでは解決しづらい悩みにも親身に寄り添う診療が特徴。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の商品・食品・治療法の効果効能を保証または推奨するものではありません。